RESEARCH

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JOURNAL OF DISABILITY RESEARCH

IN SOUTHEAST ASIA

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VolumeVol. 1
IssueNo. 1
Pages01–XX
DOI10.xxxx/jdrsa.xxxx.xxx
Received30 Jan. 2026
Accepted / Published30 Jun. 2026

Parent–Child Dohsa-hou for a Toddler Suspected of Autism Spectrum Disorder

Case Study Focusing on Changes in Maternal Understanding and Parent–Child Relationship

Authors

Eri Harada¹*, Shinnosuke Harada²

¹ Gyokusei College of Early Childhood Education , Japan
² International University of Health and Welfare, Japan

Author Information

Corresponding Author:
Name: Eri Harada
Postal Address:
E-mail:

Abstract

Background: Support for parents of children with developmental disabilities has become increasingly important in recent years. Although behavioral parent-training programs have demonstrated effectiveness, few studies have examined how parents come to understand their children’s internal experiences and build meaningful parent–child relationships. Dohsa-hou, a Japanese psychorehabilitation approach developed by Naruse, focuses on bodily movement and interactive experiences between the helper and the client. Through shared bodily experiences, it may provide parents with opportunities to better understand their children and promote positive parent–child interactions.

Objective: This study aimed to examine changes in maternal understanding and the parent–child relationship through parent–child Dohsa-hou involving a toddler suspected of having autism spectrum disorder (ASD).

Case: The participant was a 1-year-11-month-old boy with significant delays in motor, language, and social development. He frequently sought physical contact with his mother, had difficulty interacting with peers, and demonstrated limited verbal communication. His mother reported considerable parenting stress and often expressed uncertainty about understanding her child’s intentions and feelings.

Intervention: Eight individual Dohsa-hou sessions were conducted over a two-month period, focusing on body-axis formation, trunk rotation, arm-raising movements, hip-flexion exercises, standing balance, and stepping tasks. In addition to direct intervention with the child, the mother participated as a movement assistant during parent–child Dohsa-hou activities.

Results: Improvements were observed in motor functioning, including a more stable sitting posture, greater differentiation of limb movements, improved foot contact with the floor, crawling on hands and knees, and supported standing. Social and communicative changes were noted, including increased joint attention, responsiveness to verbal cues, object sharing, and enjoyment of interactive play. Furthermore, the mother gradually shifted from perceiving her child as “difficult to understand” to recognizing his intentions, efforts, and emerging social awareness. Through direct participation in movement assistance, she reported an increased understanding of her child’s abilities and needs, accompanied by more positive perceptions of their relationship.

Conclusion: The findings suggest that parent–child Dohsa-hou may contribute not only to developmental support for children with developmental difficulties but also to enhanced parental understanding and positive changes in the parent–child relationship. The present case highlights the potential value of bodily interaction as a psychorehabilitation approach for supporting families of children with developmental disabilities.

Keywords: Dohsa-hou, Autism Spectrum Disorder, Parent–Child Relationship, Maternal Understanding, Developmental Disabilities

MAIN TEXT

問題と目的

発達障害児に対する支援では、コミュニケーションや社会性の発達促進を目的とした療育プログラムが数多く開発されている。一方で、近年では発達障害児本人への支援のみならず、保護者への支援の重要性も指摘されている。特に自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)児をもつ保護者は高い育児ストレスを抱えることが知られており、その水準は定型発達児のみならず他の障害児の保護者と比較しても高いことが報告されている(Hayes & Watson, 2013)。また、ASD児の特性は家族全体の心理的・社会的機能にも影響を及ぼし、保護者の精神的健康や親子関係に様々な困難をもたらすことが指摘されている(Karst & Van Hecke, 2012)。

このような背景から、発達障害児をもつ保護者を対象とした支援プログラムが多数開発されてきた。なかでもペアレントトレーニングをはじめとする行動学的アプローチは、子どもの問題行動への対応方法の獲得や保護者の養育スキル向上に一定の効果を示している(Bearss et al., 2015)。しかしその一方で、保護者が子どもの内的体験や情緒的状態をどのように理解し、親子関係をどのように構築していくのかという関係性の側面については、なお十分な検討が行われているとは言い難い。

発達は子どもと養育者との相互作用のなかで形成されるものであり、双方が互いに影響を与え合う循環的な過程として理解されている(Sameroff, 2009)。しかし発達障害児との相互作用では、子どもの行動の意味や意図を読み取ることが難しく、親子間の相互理解が成立しにくい場合がある。特に幼児期では、子ども自身が言語によって自己の状態や要求を十分に表現できないことも多く、親は子どもの反応の意味を捉えにくい状況に置かれる。そのため、親が子どもの行動のみならず、身体表現や情緒表現を含めた広い視点から子どもを理解する機会が重要になると考えられる。

Trevarthen and Aitken(2001)は、乳幼児期の対人発達において、言語以前の身体的・情動的なやり取りを基盤とする間主観的な交流の重要性を指摘している。この視点からみると、身体を介した相互作用は、子どもの内的状態を理解し、親子間の相互理解を促進する有効な手がかりとなる可能性がある。

本事例の適用アプローチである臨床動作法(以下、「動作法」)は、成瀬(1973)によって開発された心理リハビリテーション技法である。動作法では、からだの動き(動作)を単なる運動現象として捉えるのではなく、「自らのからだを動かそうとする主体的な活動」として捉える。そして援助者との動作のやり取りを通して、からだの緊張調整や自己活動感の形成、さらには対人関係の変容を促すことを特徴としている(成瀬,2000)。

動作法では、援助者が対象者のからだに触れながら動作課題を共に行う。その過程において対象者は自身の身体感覚や努力感を体験するとともに、援助者は対象者の身体反応や変化を直接的に感じ取りながら関わる。このようなからだを介した相互作用は、言語的コミュニケーションが十分に成立しにくい幼児や発達障害児においても実践可能であり、発達支援の方法として長年用いられてきた。

また、保護者自身が動作援助者として子どもと関わる場合、子どもの身体反応や努力過程を体験的に理解する機会となり、わが子への理解の促進や親子関係の変容につながる可能性が考えられる。これまでの動作法実践では、心理リハビリテイションキャンプ等において親子訓練が実施されてきた(成瀬,1973)。しかし、その主たる目的は家庭内での動作法実践を可能にし、子どもの訓練効果を維持・促進することにあり(久田,1984)、親が動作援助者として子どもと関わる体験そのものが、どのようにわが子への理解や母子関係の変容につながるのかについては十分な検討が行われていない。

そこで本研究では、運動発達および対人コミュニケーション発達に困難が疑われる幼児に対して動作法を実施するとともに、母親が動作援助者として参加する親子動作法を導入した。本研究では、母親が子どもの身体反応や動作体験を共有する過程に着目し、その体験がわが子への理解および母子関係にどのような変化をもたらしたのかについて検討することを目的とした。さらに、発達障害児家族に対する心理リハビリテーション支援としての動作法の可能性について考察する。

事例概要

1.対象児

対象はA児(男児)であり、介入開始時の年齢は1歳11か月であった。A児は保育園および療育施設に通所していた。医学的診断は受けていなかったが、1歳6か月健診時の発達評価では発達指数(DQ)が37、発達年齢(DA)が7か月と判定され、「経過観察」とされていた。また、療育手帳B1を取得していた。

運動発達面では、自力で立位をとることがほとんどなく、立位姿勢を促されると泣いて拒否する様子がみられた。あぐら座位も自力では困難であり、日常生活では腹這い姿勢で過ごすことが多かった。

言語発達面では、要求場面において唸るような発声がみられるほか、「あ」「ま」などの単音レベルの発声が中心であり、有意味語の表出は認められなかった。

対人・社会性の面では、同年代の子どもに関心を示したり、一緒に遊んだりする様子はほとんどみられず、一人遊びが中心であった。また、活動の切り替えが苦手であり、自身の要求が通らない際には泣くことが多かった。

家庭では母親への依存が強く、常に抱っこを求めることが多かった。母親が応じられない場合には激しく泣く様子がみられ、そのため母親は日常的にA児へ付き添う必要がある状況であった。

2.母親

母親は40代であり、体操インストラクターとして勤務していた。同居家族は会社員の夫とA児の3名であった。

母親はA児の運動発達や言語発達の遅れを以前から心配していた。また、対人場面における関心の乏しさから、自閉スペクトラム症の可能性を懸念していた。

母子関係については、「何を考えているのか分からない」「何を伝えたいのか分からない」と涙ながらに語ることもあり、A児との関わり方に戸惑いを抱いていた。また、家庭内での強い身体接触要求に応じ続けることに心理的・身体的負担を感じていた。

3.介入開始までの経緯

介入担当者(以下、「トレーナー」)は当時、A児とその家族が在住する市内の児童相談所に勤務する心理士として発達相談および発達検査業務に従事していた。その相談業務を通してA児と母親に出会った。

相談のなかで、母親はA児の運動発達および社会性の発達を支援できる療育機関を探していることを語った。そこでトレーナーは、動作課題を通じた運動発達支援と、身体を介した相互作用によるコミュニケーション発達の可能性について説明したところ、母親は強い関心を示した。

トレーナーは、当初、地域で集団的に実施されている動作法実践の現場を紹介した。しかしながら、母親は、A児の人見知りの強さや新奇場面への不安の高さを考慮し、集団形式ではなく個別形式での支援を希望した。また、トレーナーによる継続的な支援を希望したため、トレーナーが所属する大学附属心理教育相談室の一室を用いて実践研究として動作法セッションを実施することとなった。

事例経過

1.初期:動作法場面への適応と援助者との関係形成(#1#2)

初回セッション時のA児は、初めての場所やトレーナーに対する不安が強く、入室直後から泣きながら母親を求める様子がみられた。母親が抱っこしている間は落ち着くものの、床へ降ろされると再び泣き出し、母親から離れることに強い抵抗を示した。そのため母親との相談のうえ母子分離でセッションを実施した。

動作課題では、あぐら座位での身体軸の獲得を基盤として、上体の捻り、腕の拳上、前屈、股関節の曲げ伸ばしといった動作を実施した。A児は座位保持そのものが不安定であり、上体や骨盤を支える力が弱く、トレーナーの膝上に座っても身体を預けたままの状態であった。上体を捻る動作課題では、躯幹全体に緊張がみられたが、ゆっくりと動かして待つことで徐々に弛緩がみられた。腕を挙げる課題では、可動域そのものは確保されていたものの、特に右上肢には強い緊張が認められ、自ら腕を動かそうとする様子はみられなかった。

また、前屈の課題では身体を前方へ倒すことに抵抗を示し、途中で起き上がろうとする様子が観察された。仰臥位に寝かせて股関節を屈曲させて膝を胸元に近づけていく動作課題(以下、「股関節の曲げ伸ばし課題」)では膝を曲げる動きと、股関節を屈曲させる動きが混同しており、膝は身体の正中線から外れ、闇雲に動かす様子であり、取り組み時間も短くすぐに止めたがる抵抗を見せた。

対人面では、トレーナーからの呼びかけや働きかけに対する反応は乏しく、絵本やボールを用いたやり取りも成立しなかった。しかし、セッション後半になるとトレーナーが近くにいても不安を示さなくなり、自分の玩具で遊び続けられるようになった。第2回にはトレーナーとともに仰向けになる遊びを受け入れることや、腕を挙げる課題においてトレーナーの援助に合わせて一緒に身体を動かそうとする様子がみられ始めた。

これらの変化から、A児はまず援助者との関係性のなかで安心感を獲得し始め、そのことが身体活動への参加の基盤となったと考えられた。

(2)中期:主体的な動作の出現と対人相互作用の拡大(#3#5)

第3回頃から、A児の動作課題への取り組み方に大きな変化がみられるようになった。

上体を捻る課題や身体軸の形成を促す課題では、トレーナーに身体を預けながらも自ら姿勢を保とうと努力する様子が認められ、あぐら座位の安定性が向上した。また、腕を挙げる課題では、トレーナーの動きに合わせて自ら腕を動かそうとする様子が多くみられるようになった。特にトレーナーの掛け声や動作に注意を向けながら取り組む様子が増加し、共同注意を伴いながら、トレーナーと共同して動作に取り組む体験が成立し始めた。

股関節の曲げ伸ばし課題では、徐々に左右ともに股関節を屈曲させる動作がわずかに生じ始めた。また、トレーナーがA児の足底に手を当てて股関節や膝関節の伸展動作を促すと、それに応じて脚を伸ばそうとする動きも認められた。

また、あぐら座位の状態で、トレーナーがA児の上体を傾けてA児の重心の安定度の左右差を確認したところ、当初のA児は身体を傾けること自体に強い抵抗がみられていたが、繰り返し取り組むなかでトレーナーの働きかけを受け入れられるようになった。A児のあぐら座位での重心の左右差の特徴は、右方向への重心移動は比較的容易であった一方で、左方向への重心移動には困難さが見られた。

立位に関しては、当初見られていたつま先立ちや立位への拒否が軽減し、抱きかかえられた状態で足底を床に接地することを受け入れるようになった。

この時期には対人面にも大きな変化が認められた。トレーナーがボールを指差しながら発声すると、その方向へ視線を向けたり、「ちょうだい」という言葉に応じてボールを持ってきたりする場面が観察された。共同注意や三項関係の成立がみられ始め、他者との相互作用が拡大していった。

母親からも、「待っていると自分から物を手に取るようになった」「幼稚園で他児に関心を示すようになった」「ソファによじ登るようになった」といった報告がなされた。特にトレーナーが「相手の意図を理解する力を持っている」と伝えた際には、母親が涙を流す場面がみられた。それまで「何を考えているのか分からない」と語っていた母親が、A児の行動の背後にある意図や主体性に目を向け始めた時期であったと考えられる。

(3)後期:身体操作性の向上と相互理解の深まり(#6#8)

後期になると、A児は動作課題そのものを理解し、自ら取り組もうとする様子がより明確となった。

躯幹を捻る動作課題では、トレーナーの働きかけに応じて自ら身体を動かそうとする様子が増え、腕を挙げる課題では、動作遂行途中に自らの身体に生じた不必要な緊張を弛めることや、適度な力加減を調節して取り組む様子などが多く観察された。また、課題への集中時間も延長した。

股関節の曲げ伸ばし課題では、トレーナーの促しに合わせて左右ともに股関節の屈曲動作の可動域が当初よりも大きく広がり、動きの円滑さも認められた。また脚の伸展動作についてもトレーナーの口頭での声掛けのみで、左右を区別して動きを生起させることができるようになった。取り組み時間が長くなり、終盤に疲労が生じると左右が混同する場面は残存していたものの、課題に応じて脚を使い分けようとする主体的な動きが明確となった。

立位での踏みしめ課題では、足指を床につけた状態で体重を受け止めることが可能となり、足底接地の安定性が向上した。さらに踏み上がり課題や立ち上がり課題では、援助者の支援を受けながら下肢を使って身体を持ち上げようとする動きが認められた。日常生活においても高這いやつかまり立ちが出現し、移動能力の向上が報告された。

対人面では、トレーナーが部屋の陰に隠れると探したり、かくれんぼ遊びを楽しんだりするようになった。また、絵本を順番に見る遊びや、ボールのやり取りなども成立するようになった。トレーナーとの関係性のなかで、「一緒に楽しむ」という体験が形成されていったものと考えられた。

母親からは、「高這いをするようになった」「言葉を理解しているのかもしれないと思うようになった」「家でかくれんぼを楽しんでいる」といった報告がなされた。セッション当初にみられた「何を考えているか分からない」「何を伝えたいのか分からない」といった語りは減少し、A児の行動の意味や意図について積極的に考察する発言が増加した。

このように、母親は動作法場面でA児の身体反応や努力過程を継続的に観察し共有するなかで、わが子の主体性や対人理解の可能性に気づいていった。そして、その体験を通してA児への理解を深めるとともに、親子関係にも肯定的な変化が生じたものと考えられた。

考察

1.動作法を通したA児の身体的変化

本事例では、2か月間8回の動作法セッションを通して、A児の身体機能および運動発達に変化が認められた。介入開始時には、A児は腹這い姿勢で過ごすことが多く、あぐら座位の保持や立位保持が困難であった。また、手足を左右別々に操作することが難しく、全身を一体的に動かす傾向が認められた。しかし、セッションを重ねるにつれて座位姿勢が安定し、手足の左右分離が進み、足底接地や踏みしめが可能となった。さらに、高這いやつかまり立ちといった新たな運動行動も観察された。

動作法では、動作を単なる運動現象としてではなく、主体が自らの身体を操作しようとする活動として捉える(成瀬,1973)。本事例においても、当初は援助者に身体を動かされる受動的な状態が中心であったが、セッションの進行とともに援助に応じながら自ら身体を動かそうとする主動感が明確になっていった。この主動感の形成が身体操作性の向上につながり、結果として日常生活場面における運動発達の促進に寄与したものと考えられる。

また、動作法では身体各部位の分化した使用や重心移動の体験を重視する(成瀬,2000)。本事例で認められた左右分離や足底接地の変化は、そのような身体経験の積み重ねによる影響であった可能性が考えられる。

2.動作法を通した対人コミュニケーションの変化

本事例では身体面のみならず、対人コミュニケーションにも変化が認められた。介入開始時には、A児は援助者からの呼びかけや働きかけへの反応が乏しく、共同注意や玩具を介したやり取りは成立していなかった。しかし介入経過のなかで、援助者の指差しに応じて対象物へ注意を向けたり、「ちょうだい」という言葉に応じて物を渡したりする場面がみられるようになった。さらに後期には、かくれんぼや絵本の共有を楽しむなど、他者との体験共有が成立するようになった。

Trevarthen and Aitken(2001)は、乳幼児期の対人発達において、言語以前の身体的・情動的交流を基盤とする間主観性の重要性を指摘している。本事例では、援助者との動作課題を通して身体的なやり取りが継続的に行われた。その過程で、A児は援助者の働きかけに注意を向け、自身の動作を相手と共有する経験を重ねたと考えられる。

また、セッション当初は援助者への不安が強かったA児が、次第に援助者に身体を預け、課題を共有し、さらには援助者を探すようになった変化は、身体を介した相互作用が対人関係の形成に寄与したことを示唆している。このような変化は、動作法が身体面のみならず対人関係の発達にも影響を及ぼす可能性を示している。

3.母親のわが子理解の変容

本研究において最も特徴的であったのは、母親のわが子理解の変容であった。

介入開始時、母親は「何を考えているのかわからない」「何を伝えたいのかわからない」と語り、A児との意思疎通の困難さに強い戸惑いを抱いていた。また、抱っこ要求や夜間覚醒への対応による疲労も強く、育児負担感が大きい状態にあった。

Hayes and Watson(2013)は、ASD児の保護者が高い育児ストレスを抱えることを報告している。またKarst and Van Hecke(2012)は、発達障害児の特性が家族関係や保護者の精神的健康に大きな影響を及ぼすことを指摘している。本事例の母親も同様の状況に置かれていたと考えられる。

しかしセッションを重ねるなかで、母親の語りには変化が認められた。特にA児が援助者の意図を理解し、共同注意や物の受け渡しを行う様子を観察した際には涙を流し、「理解する力を持っているのですね」という援助者の言葉を受け止めていた。その後も母親は「言葉を理解しているのかもしれない」「他の子に興味を示すようになった」など、A児の主体性や対人理解に着目した発言を行うようになった。

Sameroff(2009)は、発達を子どもと養育者との相互作用による循環的過程として捉えている。本事例においても、A児の変化だけでなく、母親自身の認識や関わり方が変容していた。すなわち、本事例で生じた変化はA児のみの変化ではなく、親子双方が影響を与え合う相互作用過程として理解することができる。

さらにStern(1985)は、養育者が子どもの情動や体験に調律しながら相互理解を形成していく過程を指摘している。本事例では、母親は動作援助者としてA児の身体反応や努力過程を間近で体験することによって、これまで捉えきれなかったA児の意図や主体性に気づくことができたと考えられる。

4.発達障害児家族支援における親子動作法の意義

近年の発達障害児家族支援では、ペアレントトレーニングをはじめとする行動学的アプローチが広く実施されている(Bearss et al., 2015)。これらは養育技術の習得や問題行動への対応において有効性が示されている。一方、本研究で実施した親子動作法は、行動の修正を主目的とするのではなく、身体を介した相互作用を通して親子の相互理解を促進する点に特徴がある。

また、従来の動作法実践における親子訓練は、家庭内での動作法継続や訓練効果の維持を主な目的としてきた(久田,1984)。それに対して本事例では、母親自身のわが子理解の促進という側面に焦点を当てた。その結果、母親はA児の身体反応や努力過程を共有するなかで、子どもの主体性や対人理解の可能性を見出していった。

このことから、親子動作法は発達障害児本人への発達支援のみならず、保護者のわが子理解を支援し、親子関係の再構築を促す心理リハビリテーション技法として活用できる可能性が示唆された。

5.本研究の限界と今後の課題

本研究は単一事例を対象とした実践研究であり、観察された変化が動作法による効果であるのか、あるいは発達に伴う自然変化であるのかを明確に区別することはできない。また、本研究では母親の体験や認識の変容について主として質的に検討したため、その変化を客観的指標によって評価することはできなかった。

今後は複数事例による検討や、保護者のわが子理解や養育ストレスの変化を測定する指標を導入した研究を行うことで、親子動作法の有効性についてさらに検討していく必要がある。

付記

 本研究の執筆のきっかけとなった、援助対象者のA児と保護者様との出会いに心から感謝申し上げます。

引用文献

Bearss, K., Johnson, C., Smith, T., Lecavalier, L., Swiezy, N., Aman, M., McAdam, D. B., Butter, E., Stillitano, C., Minshawi, N., Sukhodolsky, D. G., Mruzek, D. W., Turner, K., Neal, T., Hallett, V., Mulick, J., Green, B., Handen, B., Deng, Y., Dziura, J., & Scahill, L. (2015). Effect of Parent Training vs Parent Education on Behavioral Problems in Children With Autism Spectrum Disorder: A Randomized Clinical Trial. Journal of the American Medical Association, 313(15), 1524–1533.

Hayes, S. A., & Watson, S. L. (2013). The Impact of Parenting Stress: A Meta-analysis of Studies Comparing the Experience of Parenting Stress in Parents of Children With and Without Autism Spectrum Disorder. Journal of Autism and Developmental Disorders, 43, 629–642.

Karst, J. S., & Van Hecke, A. V. (2012). Parent and Family Impact of Autism Spectrum Disorders: A Review and Proposed Model for Intervention Evaluation. Clinical Child and Family Psychology Review, 15, 247–277.

久田信行 (1984). 第5章 母親トレイナーによる動作法. 成瀬悟策(編)『障害児のための動作法』東京書籍.

成瀬悟策 (1973). 『心理リハビリテイション』誠信書房.

成瀬悟策 (2000). 『動作療法 まったく新しい心理治療の理論と方法』誠信書房.

Olson, S. L., & Sameroff, A. J. (Eds.). (2009). Biopsychosocial Regulatory Processes in the Development of Childhood Behavioral Problems. Cambridge University Press.

Stern, D. N. (1985). The Interpersonal World of the Infant: A View from Psychoanalysis and Developmental Psychology. Basic Books.

Trevarthen, C., & Aitken, K. J. (2001). Infant intersubjectivity: Research, theory, and Clinical applications. Journal of Child Psychology and Psychiatry, 42(1), 3–48.

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